動脈硬化 キレーション点滴療法

動脈の酸化ストレスの軽減・血流やカルシウム代謝の改善・NO(一酸化窒素)産生促進を通じて
動脈硬化の進行を抑え全身の循環や血液状態の正常化を図ることで、慢性疾患の予防や治療効果も期待できます

キレーション療法は、有害金属や化学物質を体外に排出し、血管や細胞の健康を回復させる治療法です。
動脈硬化や循環器疾患の予防として欧米で広く活用されており、目的に応じた多様なアプローチが可能です。 キレーション療法は、体内に蓄積した有害金属(鉛・水銀・カドミウムなど)・薬物、化学物質を排出することで、血管や細胞の健康を取り戻す治療法です。起源は第二次世界大戦後、鉛中毒の治療として開発された医療技術にあり、現在では主に動脈硬化や血管の老化予防を目的に欧米の統合医療の分野で広く活用されています。

キレーション療法の歴史は古く、鉛など有害ミネラルを体外に排出するための治療として1940年代から行われています。キレーションの語源は、ギリシャ語のキレ(Chelle:カニのはさみという意味)で、キレート剤が体内の有害ミネラルをはさみこんで結合する現象に由来していす。

もともと体内の有害ミネラルを体外に排出するための治療法であったキレーション療法が、1950年代に、心臓病や循環器系の疾患に有効であることが発見されました。第二次世界大戦の帰還兵たちが、戦艦を塗装中にペンキに含まれている鉛による中毒になり、治療としてこのキレーション療法を受けました。すると、今まで動脈硬化による胸や足の痛みを訴えていた兵隊たちの症状が、改善されたことに医師たちは気付いたのです。それはとくに、Na-EDTAという合成のアミノ酸を用いたキレーション療法を受けた兵士たちでした。このことをきっかけに、米国では、100万人以上の人が心臓疾患や動脈硬化に対してこの治療を受けています。

現在、キレーション療法は、体内の有害ミネラルを排出する目的で実施するものと、動脈硬化の改善 を目的に実施するものがあります。それぞれ、検査の方法や治療の頻度、使用するキレート剤が異なるので、目的に応じて診断を受けることが必要です。
当クリニックでは、それぞれのキレーション療法を受けることができます。

動脈硬化を調べる検査

院内では、CAVI検査・MCG検査・LOX-index検査を実施し、連携している心臓血管専門クリニックでの画像検査(頸動脈エコー・心臓MRI検査など)を用いて、動脈硬化を診断します。
※人間ドックなどの画像検査をお持ちの場合はご持参ください。
※頸動脈における動脈硬化を調べることは、全身の動脈硬化の進行を把握するのに非常に役立ちます。
※心臓・冠動脈の血管の動脈硬化の進行度を画像で確認しながら治療することは、心筋梗塞の予防に非常に有効です。

キレーション療法の動脈硬化に対するメカニズムと効果

キレーション療法が動脈硬化の予防や進行の抑制に有効である理由として、血行の改善、血管の酸化ストレスの軽減、NO(一酸化窒素)産生促進、細胞内の金属バランスの再調整、有害重金属(鉛・過剰な鉄など)の除去、血管壁の弾性回復、カルシウム沈着の抑制、血液の流動性向上(血液サラサラ効果)など血管や細胞レベルでの多面的な作用が確認されています。そのことが、単に動脈硬化に効果があるだけでなく、全身の循環機能改善や生活習慣病予防になり、様々な病気の予防につながると考えられています。
キレーション療法に合わせて、日常生活(食生活、運動習慣、喫煙や飲酒など)を見直すことで、キレーション療法の効果は最大限に引き出されます。

キレーション治療のエビデンスと論文

キレーション治療は歴史のある治療法ですので、様々な臨床研究・症例報告があります。

動脈硬化に対するキレーション療法に関する代表的な研究

TACT Study(Trial to Assess Chelation Therapy): キレーション療法評価試験

TACT Studyは、心筋梗塞を経験した患者に対するEDTAキレーション療法の有効性を検証する初の大規模な多施設共同二重盲検無作為比較対照試験として、米国およびカナダの134施設で実施されました。本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)などの支援を受け、1,708名の50歳以上の心筋梗塞既往患者を対象に行われました。
被験者は、キレーション療法群(839例)と対照群(869例)に無作為に振り分けられました。キレーション療法群には週1回30週間の投与に加え、追加の10回の投与が行われ、対照群には生理食塩水とブドウ糖が投与されました。試験は平均55ヵ月間の追跡調査を実施し、総死亡率、心筋梗塞再発、脳卒中、冠血行再建、狭心症による入院の有無を評価しました。
結果として、キレーション療法群の有害な心血管事象の発生率は26%で、対照群の30%と比較して有意に低下していました(P<0.035:図1-A)。特に糖尿病患者では、キレーション療法群の心血管イベント発生率が対照群より34%低下しました(P <0.002:図1-B)。この結果は、動脈硬化性疾患に対するキレーション療法の効果に関する一定のエビデンスを示しており、特に糖尿病患者に対する有益性がみられました。
キレーション療法の臨床的有用性に関する新たな知見として、本研究の成果は、2013年3月にJournal of American Medical Association(JAMA)に掲載されました。

Gervasio AL et al.: Effect of Disodium EDTA Chelation Regimen on Cardiovascular Events in Patients with Previous Myocardial Infarction. The TACT Randomized Trial. JAMA 27: 1241-1250, 2013より

図1-A)主要評価項目の発生率(全体) 文献)より引用

図1-B)主要評価項目の発生率(糖尿病患者のみ)

その他

血管障害に顕著な効果1

ブラジルの研究者たちにより、2870名の多様な循環障害患者に対して行ったNa-EDTAキレーション療法の結果が報告されました。この報告によると、末梢血管の障害や間欠性跛行(血液の流れが悪いために長距離歩けない)の患者に100%近い(98.5%)効果があり、心疾患患者の93.5%、脳血管障害患者の54.0%で何らかの効果がみられました。全体では、91%の患者に「顕著な効果」が、そして7.6%の患者に「良い」効果が認められました。また、治療をうけた虚血性心疾患の患者のうち、77%に「顕著な効果」が、16.5%に「良い効果」が認められました。

Medical Hypotheses 1988, 27(1):4-1-9より

血管障害に顕著な効果2

1993年のレビューでは、発表された論文40件と未発表の研究30件において、22765例の心血管病変を持つ患者のうち、Na-EDTAキレーションの治療をうけた89%に効果がみられたと報告しています。心臓のバイパス手術、糖尿病による下肢の切断手術を回避し得た例が、それぞれ、65例中58例、27例中24例ありました。

Journal of Advanced in Medicine, 1993; 6: 161-171より

顕著な血流の増加

1999年のオーストラリアの研究では、一酸化窒素に関連した血管内皮機能(障害)および、ストレスに応じた動脈の拡張能力に対するキレーション療法の効果が調べられました。血管内皮機能の低下はアテローム硬化性心疾患の顕著な特徴であり、心臓発作のリスクを高くします。この研究では、被験者に、Na-EDTAとビタミンB群を混用し6週間にわたって10回投与しました。キレーション療法により動脈の拡張に著しい改善をもたらしたことが、上腕からの血流測定で明らかになりました。さらに、付加価値として、この併用療法は、心臓発作のリスク要因であるホモシステイン値を低下させました。

Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology, 1999; 26(11):853-6より

心血管疾患患者におけるEDTAキレーション療法の有効性:体系的レビューとメタ分析

2022年に心血管疾患(CVD)患者に対するEDTAキレーション療法の効果を評価した体系的レビューとメタ分析の結果が発表されました。24件の研究を分析した結果、17件の研究でEDTA療法による何らかの改善が報告され、うち5件では統計的に有意な効果が認められませんでしたが、2件では効果がないとされていました。EDTA療法は特に糖尿病や末梢動脈疾患(PAD)を持つ患者に有益である可能性が示され、足首上腕指数(ABI)の改善も確認されました。特に、糖尿病や重度の末梢動脈疾患(PAD)を抱える患者においては、より顕著な効果が示されました。EDTAは有害金属の排出を通じて酸化ストレスや炎症を軽減する可能性があり、特定の患者群にとって新たな治療選択肢となり得ます。ただし、研究の質や数には限りがあり、さらなる検証が必要とされています。

J Am Heart Assoc. 2022, 11(6):e0274648より

TACT2試験

本研究(TACT2)は、糖尿病と心筋梗塞の既往を持つ患者を対象に、EDTAキレーション療法が心血管イベントを予防するかを検証した二重盲検ランダム化試験です。EDTAは血中鉛濃度を61%低下させましたが、主要心血管イベントの発生率においてはプラセボとの差が見られず、ハザード比は0.93(P=0.53)と有意差はありませんでした。先行研究(TACT)で報告された有意な効果は再現されず、背景として鉛の環境曝露量の低下などが考えられました。

JAMA. 2024;332(10):794-803.より

期待できる効果

  • 動脈硬化の進行抑制
  • 血流改善による冷え性・肩こり・頭痛の緩和
  • 有害金属の排出によるデトックス効果
  • 認知機能のサポート、脳血流の改善
  • 慢性疲労や生活習慣病の予防
  • 血管の柔軟性が改善され全身の循環機能が向上

この治療をおすすめする方

Na(Mg)-EDTAのキレーション療法は、カルシウム沈着により固くなった血管を柔らかくし、血流を改善する作用が期待され、動脈硬化に起因する症状に効果が期待できます。

  • 動脈硬化や血管年齢の進行が気になる方
  • 慢性的な疲労や手足の冷え、循環不良を感じている方
  • 循環器の治療後に再発予防や補完医療を希望される方
  • 以下の症状や疾患をお持ちの方
    • 高血圧症
    • 冠動脈系疾患(心筋梗塞・狭心症など)
    • 脳血管疾患(脳梗塞・脳動脈硬化症など)
    • 閉塞性動脈硬化症
    • 加齢による視力低下・加齢黄斑変性症
    • 糖尿病・糖尿病性血管障害・末梢神経障害
    • 自己免疫疾患(リウマチ・多発性硬化症など)・変形性関節症
    • その他:線維筋痛症、間欠性跛行、骨粗しょう症、神経障害、傷の治りが遅いなど。

この治療の安全性と副作用

一般的には安全性の高い治療ですが、亜鉛・マグネシウム・カルシウム等の体内必須ミネラルが一時的に減少する可能性があるため、サプリメントでの補充が必要です。
また、低血糖や低カルシウム血症などの副反応を防ぐため、医師の管理のもと慎重に点滴速度や成分濃度を調整しています。

Na(Mg)-EDTA薬剤使用で報告されている副作用

血管痛、静脈炎
Na(Mg)-EDTAを血管に注入することにより、血管に痛みを生じたり、炎症を起こすことがあります。 点滴の速度を調節したり、点滴部位を温めたりすることで解消します。
ビタミンBの減少
Na(Mg)-EDTAを点滴することで、ビタミンBが体外に排出されてしまいます。そのため、キレーション療法を行う際には、ビタミンBの補充が必要です。
必須ミネラルの減少
Na(Mg)-EDTAを点滴すると、その量は有害ミネラルに比べ少量ですが、亜鉛、マグネシウム、カルシウムなどの必須ミネラルも、体外に排出されてしまいます。キレーション療法を行う際には、必須ミネラルの補充が必要です。
低血糖
キレーション治療には血糖値を下げる作用があるため、空腹時に点滴をすると低血糖を起こすことがあります。キレーション治療前には食事を摂っておくことが望ましいです。やむを得ず、空腹の状態で治療を受ける場合に備え、飴などをご用意しております。
腎障害
Na(Mg)-EDTAを急速に点滴すると腎臓に障害を与える可能性があります。(規定の点滴速度での投与が必要です。)
全身倦怠感
数%のケースで、点滴後に、疲労感、脱力感、頭痛、吐き気などを感じる場合があります。これは、有害ミネラルが体内から血管内に移動し、尿中に排出される減少に伴うもの、また、必須ミネラルが減少することと関係があります。こうした症状は、キレーション治療を始めたころに多く、3〜5回と治療が進むにつれて消失する傾向があります。必須ミネラルの補充や必要に応じたキレート剤の量の調節で対応します。
アレルギー
非常にまれですが、Na(Mg)-EDTAにアレルギーのある場合があります。この場合には、この治療を継続することはできません。
ビタミンB欠乏

この治療の注意点

  • 腎機能に著しい障害がある方は治療を受けられない場合があります。
  • 必ず事前に動脈硬化の進行度を採血・画像検査で評価する必要があります。
  • 治療中は適切なミネラル・ビタミンの補給を行います。
  • 治療中は十分な水分摂取をすることが、排泄促進と副作用軽減に役立ちます。
  • 妊娠中・授乳中の方は原則として治療をお受けできません。
  • 低血糖予防として、治療当日は、食事をしてから点滴を受けてください。

使用する薬剤について

当クリニックでは、アメリカの調剤薬局で個人用として調合したものを使用しています。

推奨する治療頻度・投与量

Na(Mg)-EDTAを1時間30分〜3時間かけて点滴します。週に1〜2回の頻度で、1コース20〜30回の治療を行います。治療の頻度は、その方の状態によって異なります。検査結果に基づき、医師が治療プログラムを設計します。上記コースが終わった後は、月に1〜2回の維持治療を行います。
投与時間と投与量など、定められた方法で行えば、大きな副作用なく治療を行うことができます。